[スマートテクノロジーフォーラム]
STF<2020>/「うつ病治療の最前線~ニューロモデュレーション療法~」

国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部長・臨床心理部長
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 准教授
鬼頭伸輔

うつ病は、抑うつ気分や興味・喜びの喪失を主症状とする疾患です。国内の患者数はおよそ100万人超と見積もられ、年々増加しています。うつ病の治療では、休養、環境調整、心理教育や認知行動療法などの精神療法、薬物療法が集学的に行われます。薬物療法は、治療ガイドラインに準拠し、個々の症例に応じて段階的に進められますが、約1/3の患者は複数の抗うつ薬によっても寛解に至らないことが知られています。このような患者への新規治療法に対する医療ニーズは大きく、さまざまな脳刺激法が研究開発されています。ニューロモデュレーションとは、電気・磁気・薬物によって神経機能を修飾し、症状を緩和させることを言います。特に、精神神経科領域では電気・磁気によるモダリティを用いた治療をニューロモデュレーション療法としています。

経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)は、Faraday の電磁誘導の法則に基づき、経頭蓋的に脳を刺激する技術です。その刺激強度は1.5─2.0Tesla、刺激深度は1.5─3.0cmです。非侵襲的に刺激できるため、神経生理学的検査に用いられています。特に、規則的な刺激を繰り返して行うものを反復経頭蓋磁気刺激(repetitive TMS, rTMS)と言います。脳活動を変化させることができ、精神神経疾患の治療に応用されています。たとえば、10ʜzの高頻度rTMS は、皮質興奮性に対して促進的に作用し、1ʜzの低頻度rTMS は抑制的に作用します。rTMS は、このように皮質興奮性を修飾させることから、うつ病だけではなく、脳卒中後のリハビリ、パーキンソン病、ジストニア、耳鳴、神経因性疼痛、てんかん、統合失調症、依存症、強迫性障害などの疾患への治療応用が試みられています。

わが国でも、2019年6月から薬物療法が奏効しない治療抵抗性うつ病に対して左前頭前野へのrTMSが保険診療として導入(NeuroStarTMS治療装置)されているほか、双極性障害抑うつエピソードでは右前頭前野へのrTMS が先進医療として認可され、現在その有効性が検証されています。最近では、深部経頭蓋磁気刺激(deep TMS, dTMS)が承認となったほか、シータバースト刺激(theta burst stimulation, TBS)といった新規刺激法の有用性も報告されています。また、一部のうつ病患者に実施されてきた電気けいれん療法(electroconvulsive therapy,ECT)は強力な抗うつ療法ですが、高齢者では認知機能障害を呈しやすいことが経験されています。一方、rTMS によって人為的にけいれん発作を引き起こす磁気けいれん療法(magneticseizure therapy, MST)は、認知機能障害を伴わず、次世代のけいれん療法として期待されており、現在、鋭意研究開発が進められています。

NeuroStar TMS治療装置(Neuronetics,US)