[スマートテクノロジーフォーラム]
STF<2020>/「健康寿命を支える骨格筋を元気に保つには~筋細胞研究からの提言~」

電気通信大学 脳・医工学研究センター長 教授 狩野 豊

加齢や寝たきりなどの不活動状態、あるいは代謝的疾患(糖尿病など)に関連した筋肉量の減少と持久性能力の低下は、Quality of Life や健康寿命などに直結するリスクファクターです。健康寿命は、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことを指します。日本では約10年間の差がある平均寿命と健康寿命との期間を縮めることが超高齢化社会を支えることになります。要介護状態の原因の25%は運動器の障害です。運動器とは、筋肉、関節、骨や軟骨、神経系を含んでいます。運動器の柱である骨格筋は、約400パーツに分かれて全身の運動を支えています。骨格筋は、細胞の視点から見ると実にユニークな特徴を持っています。それは、多核細胞であるということです。多くの細胞核が集合して、1つの筋細胞という社会を構成しています。さらに、筋細胞の周りには、細胞核の予備となる核が存在しており、衛星細胞と呼ばれます。筋細胞は、この衛星細胞によって取り囲まれており、細胞自身に変化が起こるときに、融合されて、仲間に加わるのです。筋力トレーニングによって、筋肥大が起こるときにも衛星細胞が融合されて、筋細胞核が増えます。筋肥大とは、単純に細胞が大きくなるだけではなく、細胞増殖という劇的な変化が起こっているのです。

50歳を過ぎる頃から、骨格筋にはエイジングによる変化が生じてきます。つまり筋肉がやせてきます。ここで注目することは、筋肉の衰えは、すべての筋細胞に元気がなくなるというものではないことです。ある筋細胞が選択的に萎縮するという現象が現れてきます。元気な筋細胞は、何歳でも元気な状態が維持されます。筋肉を元気に保つことは、この選択的に萎縮する筋細胞に働きかけて、機能を維持することが必要です。

現在まで、筋肉量を維持する筋細胞適応の分子メカニズムについては十分な理解が得られていません。筋肉量をコントロールする細胞内のスイッチ機構の存在が明らかになれば、様々な手段によって筋細胞の適応を効果的に導くことが可能となります。私の研究では、このスイッチを見つけることを目標としています。これまでの研究から、このスイッチの候補として、カルシウムイオンに注目しています。そして、このスイッチを「目で見て理解する」ということにチャレンジしています。ここで必要となる技術がバイオイメージングという手法です。バイオイメージングには、細胞内の物質を光らせる化合物やタンパク質合成という化学系の技術、特定の波長を制御したり微弱な光でも感知できる光学系の技術、さらに、その信号を画像化して評価する情報学などの技術が重要となってきます。その点において、電通大において盛んであるレーザー、情報科学、機械工学などの技術は、バイオ研究に直結できるメリットがあります。これらの電通大発となる技術をバイオ研究に応用し、骨格筋を元気に保つスイッチを見つけることによって超高齢化社会に貢献したいと考えています。