[スマートテクノロジーフォーラム]
STF<2019>/「DNAの多様な形態とその機能~化学の視点からのDNA研究~」

電気通信大学大学院 情報理工学研究科基盤理工学専攻 助教 田仲真紀子

DNA(デオキシリボ核酸)と聞いてすぐに思い浮かべるのは、有名な二重らせん構造だと思います。DNA中には、チミン(T)、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種の塩基が含まれており、その配列は遺伝情報を担う重要な機能を持っています。私たちの体の中ではDNAの核酸塩基の配列をRNA(リボ核酸)に転写して、配列を翻訳することで、タンパク質が合成され生命活動を維持しています。二重らせん構造の内部は、核酸塩基が積層したスタッキング構造を取ります。一般的にDNAは希薄な水溶液中では、約10塩基対で一巻きとなる右巻きのB型構造を取ることが知られており、以前は細胞内のDNAについてもほぼ均一でB型らせん構造を取ると考えられてきました。その他の構造としては、幅が広く長さが短く、水平面に対して塩基対が大きく傾いているA型構造や、左巻き構造のZ型DNAも存在し、その中間形態があることも知られています。

実はこの塩基のスタッキングを介してDNAの中は電子が効率よく移動するのではないか?そのような問いが、学術的興味、新規ナノ材料の開発、生命活動への関連などから注目され、多数の研究グループによって数十年にもわたって多くの検討がなされ、今日までにその詳細が明らかとなってきました。このような研究はこれまでは主に希薄な水溶液中でB型構造を取るDNAを対象に行われています。しかし実際の細胞内では体積の20~40%は、高濃度のタンパクやその他の生体分子が混み合って存在している分子混雑環境にあると言われています。その中でDNAは様々な分子との協同により生命を高機能に維持しています。最近では生体内の高濃度条件では、分子は均一には存在せず、相分離することで局所的に特定のタンパクや核酸の濃度が高くなった液滴を形成し、その中で酵素反応をはじめ様々な生体反応が効率よく進むのではないかと考えられています。分子混雑環境では、DNAは三重らせん構造や四重鎖構造を取りやすいという報告もあります。高濃度の高分子や塩が共存する状態ではDNAは可逆的に液晶構造などの凝縮体になることもあります。

凝縮した液晶DNAの中での電子の移動、およびその結果としてDNA内に生じる損傷について注目したところ、希薄水溶液中よりも大幅に促進されるということが分かってきています。生体内ではDNAは刻一刻と変化する周辺の環境に応じて多様な形態を取り、その形態変化に伴ってDNAはその特性を変化させることで、これまでの実験結果から予想されていたよりも、本当はずっと多彩で高機能に生命活動を行なっているのかもしれません。疾病につながるDNA損傷の制御には、このような生体内の局所環境の変化に応じたDNAの形態変化と機能変化への知見を利用できるのではないかと考えられます。