[スマートテクノロジーフォーラム]
STF<2019>/「医工連携への期待~耳鼻咽喉科領域における医工連携研究の事例~」

電気通信大学大学院 情報理工学研究科教授、脳・医工学研究センター 小池卓二

我が国は他国に先駆けて人口減少・超少子高齢社会を迎えており、この変化に対応できる社会システムの構築が急務となっています。とりわけ医療システムの改革は喫緊の課題です。患者の高齢化は治療内容の複雑化や治療期間の長期化を招き、少子化・人口減少は医療を支える財源と人材の不足に拍車をかけます。このような状況下では、患者が必要とする医療コスト、すなわち【必要なケアの質×量】は今後ますます増大し、医療従事者が提供可能な【医療サービスの質×量】は低下していくことが予想されます。将来的に持続可能な医療を行うためには、両者の比(下図)を一定水準以下に抑える必要があります。このカギとなるのが、医工連携による新たなものづくり、システムづくりであります。IoTやAIに代表される技術革新がもたらす革新的医療は、患者が必要とするケアの質を高めることで治療期間の短縮化を実現するとともに、未病段階における予防医学の高度化をもたらし、トータルとしての医療コスト低減に貢献するであろうと考えます。また、医療従事者側にとっても、医療サービスの質を向上させつつ、省力化を実現するものとなるであろうと考えます。これら革新的医療は、既に実用化されているものもあれば、開発段階のものも多く存在します。一方で、実用化されないまま埋没してゆくものも多く、如何にして革新的医療を身近なものとして深化させていくかが、医工連携研究に携わる者に課された課題です。

以上を念頭に置きつつ、我々は主に耳鼻咽喉科関連の医工連携研究を推進しています。具体的には、

  • コミュニケーション能力の低下に直結する難聴の発生機序や有効な治療法模索のための末梢聴覚器数値シミュレーション
  • 術後成績の安定化(QOL向上)や再手術率低減(身体的・経済的負担低減)のための術中耳小骨可動性計測装置開発
  • 中高度難聴および老人性難聴に適用可能な植込み型骨導補聴器開発
  • 高齢者に多くみられる誤嚥性肺炎防止を目指した近赤外蛍光による誤嚥検出法開発

等について、いずれも各大学医学部および診療機関と密接な協力体制を取りつつ研究を行っています。

上述の様に、研究結果を埋没させずに実用化していくためには、学術的意義や有効性に重きを置きつつも、現場のニーズや実際の使い勝手、コストパフォーマンスも強く意識しつつ、研究を行っていく必要があります。医工連携研究を成功させるためには、研究組織間の連携や、研究シーズ・ニーズのマッチングも必要ではあるものの、結局はつくる側と使う側・適用される側のヒトとヒトとの連携が重要であるように思われます。