調布ネットワーク 25-2
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291 はじめに最近、工学分野から農学分野への進出が盛んである。その多くは土壌を必要とせず、人工的な環境調節が可能な植物工場を対象としている。その一方で、新しいICT技術を利用して露地野菜、果実、コメなど、自然環境下での農業生産に挑戦する農家や研究者も現れてきている。しかし、こうした挑戦者の前には常に「土壌」が立ちはだかっている。土壌は、物理的には土粒子・水・空気で構成され、そこに化学的には窒素・リン酸・カリなどの栄養分、生物学的には小動物・センチュウ・カビ・バクテリアなどの微生物が存在し、常にその状態を変化させている。しかも日射や温度、降雨などによって常に土壌環境は変化し、それがまた土壌中の物理・化学・生物学的な変化に影響を及ぼしている。篤農家はこうした複雑な土壌の状態を経験的に診断し、作物にとって最適な環境を作る技術を持っている。農業の素人はこうした技術を一朝一夕に習得できるものではない。しかしながら、適当な土壌センサーがあれば素人であっても少なくとも土壌の物理的な環境の把握に関して、経験に裏打ちされた篤農家の技術に近づくことができるかも知れない。そうした期待感が最近のICT農業ブームの背景にあるように思われる。そこで本発表では、土壌センサーの種類や特徴、それらを実際の圃場で利用するためのモニタリングシステムについて概説する。2 土壌センサー土壌センサーは、土壌水分や温度などの土壌情報を電気信号に変換する装置である。通常、電気信号を記録するためのデータロガーと一緒に利用される。このうち農業分野で重要なセンサーは土壌水分センサーである。(1) 体積含水率センサー土壌水分は通常、体積含水率(土の体積当たりの水の体積パーセント)で表示される。最近の土壌水分センサーは、土粒子と水の誘電率の違土壌センサーを用いたフィールドモニタリングの基礎と応用東京大学 教授 溝口 勝いを利用したTDR法やADR法の原理に基づいて設計されていて、土壌にセンサーを挿入するだけで簡単に数値が得られる。しかし、この数値の解釈には注意が必要である。土壌を構成する土粒子の種類(砂や有機物の含有量)によって、また土の詰まり方(乾燥密度)によって値が異なるからである。土壌水分センサーは土粒子(固相)と水(液相)の誘電率の割合から水分量を換算しているので、微生物によって有機物量が分解され、肥料によって土壌溶液中のイオンの種類や濃度が変化するような場合には正しい値を示さない。したがって、農業の現場ではあくまでも一つの指標と考えるべきである。(2) マトリックポテンシャル(MP)センサー植物にとって重要なのは土壌中の絶対的な水分量ではなく、土壌中の水分を利用できるかどうかである。土壌は砂を多く含むか、粘土を多く含むかで、“水もち”が異なる。たとえば、砂質土壌では降雨や灌漑水がすぐに浸み込みすぐに抜ける。一方、粘土質土壌では浸み込みが遅く排水が遅い。植物の根はこうした土壌から水分を吸収するが、その吸水のしやすさは体積含水率では表せない。植物に対する土壌水の利用のしやすさはマトリックポテンシャル(吸引圧、水分張力、テンションと呼ばれることもある)スマートテクノロジー・フォーラム(STF)2013

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